19.2. 個体群生態学の概要
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同じ空間に分布する同一種の個体のグループ
個体群のメンバーはたがいに影響し繁殖する
また、同じ資源に依存し、同じ環境要因に影響される
個体群生態学の焦点
構造(たとえば、齢ごとの総体個体数)
サイズ(個体数)
成長率(個体群サイズの変化率)など
個体群生態学も応用研究で鍵となる役割を担う
たとえば絶滅の危機に瀕した種を特定し保全するための重要な情報を提供する 個体群生態学は、世界中の漁業を持続的に行うため、野生生物の個体群の管理に用いられている
害虫や病気の個体群生態学は、それらの分布拡大をコントロールするヒントを与える
個体群生態学者は、最も重要な環境問題の1つである人口増加についても研究する
ある個体群のスナップ写真がどのように見えるか
最初の問いは、どの個体がこの個体群に含まれるか
個体群の地理的境界は、ありのままかもしれない
しかし、生態学者は、各々の調査の目的に合うように、任意の方法で個体群の境界を定義する
たとえば、イソギンチャクの個体群成長に対する無性繁殖の効果を研究する生態学者は、個体群をある潮溜まりに生育するすべてのイソギンチャクと定義する 狩猟がシカに与える影響を調べる研究者は、個体群をある州内のすべてのシカと定義するだろう エイズ感染症によって最も影響される人口の年齢階級を特定しようとしている研究者は、ある国あるいは世界中の人間の個体群を対象にエイズウイルスの感染率を調査するだろう 個体群密度
面積・堆積あたりの種の個体数
たとえば、ある湖の立法kmあたりのオオクチバスの数、ある森林の平方kmあたりのナラの樹木の数、ある森林の土壌の立法mあたりの線虫の数 まれに、生態学者は教会内における個体群すべての個体を数えることができる
たとえば、50km²の森林におけるナラの樹木の合計が200個体だったとすると、個体群密度は4/km²となる
しかし、ほとんどの場合、すべての個体を数えるのは非現実的あるいは不可能
代わりに、生態学者は個体群密度を推定するため、さまざまなサンプリング手法を用いる たとえば、フロリダのエバーグレーズのアリゲーターの密度は、1km²の調査区を数カ所に設定して推定される 一般的にいって、サンプルとなる調査区の数や大きさが大きくなるほど、個体数の推定の精度はよくなる
個体群密度は、個体を数えることでなく、間接的な指標でも推定される
個体群密度は一定の値ではない
個体が出生あるいは死亡したとき、あるいは、新たな個体が個体群に移入・移出するとき、個体群密度は変化する
個体群の齢構造
異なる齢グループごとの個体数分布
齢構造は、個体群密度からはわからない情報を示す
たとえば個体群の生存あるいは繁殖成功の履歴や、それがいかに環境要因と関連しているのかについて
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1983年に生まれた4年制の個体が個体群の半数を占め、2または3年生の個体は全くいない
サボテンフィンチの食物は植生に依存し、植生は降雨に依存している
1983年の出生率の急上昇は、異常に湿潤な天候で豊富な食物が供給されたことによる
1984年と1985年の厳しい干ばつは食物供給を制限し、繁殖を妨げ、多くの死をもたらした
齢構造は個体群の将来の変化を予測するための便利な道具
生命表と生存曲線
生存率つまり個体群におけるさまざまな年齢の個体が生存する確率を追跡記録したもの 生命保険会社は、ある年齢の人が平均してどれくらい生きるかを予測する絶えに、生命表を利用する
10万人の個体群で始めた場合の、各齢階級の始まりの年齢で生きていると期待される人数
table: 2004年における米国の生命表
年初の生存数 年間死亡数 生存数
年齢区分 (N) (D) 1-(D/N)
0~10 100000 871 0.991
10~20 99129 419 0.996
20~30 98709 933 0.991
30~40 97776 1259 0.987
40~50 96517 2781 0.971
50~60 93735 5697 0.939
60~70 88038 11847 0.865
70~80 76191 22267 0.708
80~90 53925 31706 0.412
90+ 22219 22219 0.000
個体群生態学者はこの手法を採用し、さまざまな動植物種の個体群構造や動態を理解するための生命表を作成した
生活環において最も死亡しやすい段階を特定することによって、生命表のデータは、保全活動家が個体数の減少している種の効果的な保全策を考案することにも役立つだろう
最大寿命に対して、各齢で生存している個体数を描いたもの
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x軸には実際の年齢の代わりにパーセンテージの目盛りを用い、同じグラフで異なる寿命の種を比較できる
ほとんどが老齢まで生きる
I型を示す種、たとえばヒトや多くの大型哺乳類は少数の子を産んで子の世話をよくして、成熟するまでの生存率を増加させる とても若い年齢での生存率が低く、その後、ある年齢まで生き残った少数の個体の生存率は高い
この型の種は、多数の子を海ほとんどあるいは全く子の世話をしない
ある魚の種は、一度に数百万の卵を産むが、そのほとんどが捕食者などの影響で幼生のときに死んでしまう 生存率が生涯を通して一定
生活環のある段階で特に死亡しやすいということはない
進化的適応としての生活史特性
個体群における生存率のパターンは、その種の生活史 life historyの鍵となる特徴で、生物の繁殖や生存スケジュールに影響する一連の特性から構成される 鍵となる生活史特性は、繁殖が可能になる年齢、1回に産む子の数、親による子育ての程度など
ある環境における個体群の場合、自然選択は個体の残す子の数を最大にする生活史特性の組み合わせに対して有利に働く
言い換えると、生活史特性は、解剖学的特徴と同様に進化的な適応で形成される 自然選択はすべての生活史特性を同時に最適化させることはできない
なぜなら生物は、時間、エネルギー、栄養素に制約があるから
たとえば、多数の子を産む生物は、子の世話に大きな投資はできない 結果として、生活史特性の組み合わせにはトレード・オフの関係が生じ、繁殖と生存の要求に対してバランスがとられる
選択圧は変化するため、生活史は多様になる
生態学者は、自然選択が生活史特性に及ぼす影響を理解するのに役立ついくつかのパターンを見出してきた
急速に成長して性成熟し、多数の子を産み、この世話をほとんど、あるいは全くしない
小さな体サイズで短い寿命の動物に代表される
植物の場合、「親による子の世話」は種子で蓄えられた養分の量で測ることができる
好適な条件ですぐに有利性を発揮できる
成長や性成熟のパターンはゆっくりで、少数の子を産み、子の世話をよくする
平衡的な生活史の生物は、典型的には、より大きな体サイズで、長い寿命を持つ このような生活史パターンを持つ個体群はI型の生存曲線を示す たとえばココヤシは栄養素が豊富な貯蔵物質を持つ種子を比較的少数つける table: 機会的あるいは定常的な個体群の生活史の特徴
特徴 機会的個体群 定常的個体群
気候 比較的予測性が低い 比較的予測性が高い
成熟時間 短い 長い
寿命 短い 長い
死亡率 しばしば高い 多くの場合低い
1回の繁殖あたりの子の数 多い 少ない
生涯あたりの繁殖回数 多くの場合1回 多くの場合複数回
最初の繁殖の時期 生活史初期 生活史後期
子や卵のサイズ 小さい 大きい
親による子の世話 ほとんどない、もしくはない 多くの場合よくする
生活史パターンの違いは何を説明しているか
ある生態学者は、子の潜在的な生存率と、親が再び繁殖するまでの生き残りやすさが重要な要因であるとの仮説を立てている
厳しい予測性の低い環境では、親は1回の繁殖の機会しかないだろう
その場合、質よりもむしろ数に投資することが有利になるかもしれない
一方、安定した好適な環境では、親は再び繁殖するまで生き残ることが容易
種子は条件の良い場所に落下しやすく、新たに生まれた子は成熟するまで生存しやすい
その場合、1回に数少ない子を作り、子の世話に投資する親が有利になるかもしれない
もちろん、これら2つの極端な場合より、もっと多様な生活史パターンがある
それにも関わらず、これら対照的なパターンは、生活史特性と次のトピックである個体群成長の間の相互作用を理解する上で役に立つ